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看護過程こそが目標管理 ・・・ドラッカーを読み解く

Photo  目標を立てて計画し、実践して評価するという、一連の看護過程こそが、看護師にとっての目標管理である。それなのに多くの看護師は、看護目標を立てずに、業務改善や資格取得や看護研究などの二次的な目標ばかり立ており、肝心の看護は標準看護計画に則して、いわば指示通り・マニュアル通りとなっている。このような現状を嘆き、改善を訴えて走りまわっているのだが、私の訴えの根拠について、目標管理を提唱したドラッカーの言葉を引用しながら、ここで説明しておきたい。
 まず、ドラッカーは目標管理について、『現代の経営』で次のように述べている。

 今日必要とされているのは、一人ひとりの強みと責任を最大限に発揮させ、彼らのビジョンと行動に共通の方向性を与え、チームワークを発揮させるためのマネジメントの原理、すなわち一人ひとりの目標と全体の利益を調和させるマネジメントの原理である。これらのことを可能にする唯一のものが、自己管理による目標管理である。
 P.F.Drucker 1954(邦訳p.187)

 医療チームにおいて看護師が強みとするのは、いったい何だろうか。看護師が責任を負わなければならないのは、いったい何についてだろうか。それは、業務改善でもなければ、資格取得でもなく、もちろん看護研究でもない。医師に看護師のような看護はできないし、人出不足だからといって事務職に看護をしてもらうわけにもいかない。看護師の強みは看護そのものであり、看護師は看護に責任を負わなければならないのである。
 看護目標を立てることによって、看護師は強みを発揮することができるし、責任を負うこともできるのである。ただし、医師や事務職など、他の職種にもそれぞれに強みがあり、それらの目標と看護師の目標とが、うまく噛み合わなくてはならない。そこで、職場の理念に基づいて各職種が目標を立てることになり、そうすることで共通の方向性が与えられて、チームワークが発揮されるのである。
 職場の理念は、職場が存在し、事業展開する目的を表している。理念を実現するために職場があるのであり、職員が集まって共に働いているのである。

 目標管理の利点は、自らの仕事を自ら管理することである。その結果、最善を尽くすための動機がもたらされる。高い視点と広い視野がもたらされる。管理とは自らを方向づけることを意味する。しかし人を支配することも意味する。目標管理における目標とは、前者の意味での管理の基礎となるものである。
 P.F.Drucker 1954(邦訳p.179)

 業務改善や資格取得や看護研究なども、もちろん必要であり、大切である。しかし、業務改善がしたくて看護師になった人はいないであろう。看護師の大半は、看護がしたくて看護師になったのである。
 そのために、様々に工夫しながら、よりよい看護を提供することができて、患者さんに喜んでもらえると、看護師は仕事のだいご味を味わうことができる。「看護師になってよかった」「これからもがんばろう」という気持ちになれるのである。よりよい看護を実現するために看護過程は欠かせないのであり、それによってドラッカーが述べた通り、「最善を尽くすための動機がもたらされる」のである。
 もちろん、新人の頃は標準看護を目指してもいいが、いつまでも標準では質の高い看護とは言えない。しっかりアセスメントして、標準看護に足らないものを付け加えたり、要らないものを削ったりすることで、一人一人の患者さんに合った最善の看護を提供することができるのである。

 私が初めて目標管理を提唱して以来、この言葉はスローガンとさえなった。目標管理を採用している組織は多い。しかし、真の自己管理を伴う目標管理を実現しているところは少ない。自己管理による目標管理は、スローガン、手法、方針に終わってはならない。原則としなければならない。
 P.F.Drucker 1974(邦訳p.141)

 『現代の経営』を出版してから20年後に、ドラッカーは『マネジメント 基本と原則』において、目標管理の現状を嘆いている。スタッフの目標をスタッフ自身が自己管理せずに、管理職や人事部が管理している職場も珍しくない。ドラッカーが嘆いた現状は、目標管理が広がった今日の看護界にとっても、無縁ではないであろう。
 「機能評価で外部からチェックされるから」という理由だけで、形だけの目標管理に終わってはならない。年に3回面接したり、資料をファイルに綴じて共有したりする手法が、目標管理ではない。仕事をする上での「原則」にしなければならないのであり、つまり、日々の仕事を目標管理で行わなければならないのである。
 看護師にとっての日々の仕事とは、言うまでもなく看護である。たとえ年間目標を立てるにしても、理念に則した患者満足度の改善・向上など、一人一人の患者さんの看護を通して達成される目標でなくてはならない。看護の仕事が終わった後に、努力しなければ達成できないような目標を立てて、しかも、その目標の到達度によってボーナスなどが査定されるならば、看護そのものに対する労働意欲や継続意欲は失せてしまう。そして、日々の看護は疎かになり、看護の質の悪化につながってしまうのである。

 誰もまだ、働く者に対して「仲間のマネジャー諸君」とは呼びかけていない。しかし、それこそが目標である。今後も、マネジメントの権限と権力、意思決定と命令、所得の格差、上司と部下という現実は残る。しかし我々には誰もが自らをマネジメントの一員とみなす組織を作り上げるという課題がある。
 P.F.Drucker 1974(邦訳p.77)

 ドラッカーが「マネジャー諸君」と呼び掛けたのは、管理職に対してではなく、全てのスタッフに対してである。つまり、管理職から一人一人のスタッフへと、マネジメントの権限と権力を移譲しようとしたのである。しかし、管理職が上に立って意思決定し、下のスタッフに命令するという、上意下達のピラミッド組織は、ドラッカーの時代には根強く残っていた。ピラミッド組織のままでは、目標管理は上手く行かない。ピラミッド組織に代わる新しい組織を作ることを、ドラッカーは「課題」として残して死んでいったのである。
 その後、スカンジナビア航空を再建したヤン・カールソンは、ピラミッド組織を解体して権限移譲を徹底した。そして、ヤン・カールソンの影響を受けたカール・アルブレヒトが、権限移譲された後の組織として、逆さまのピラミッドを提唱した。さらに、権限移譲されたスタッフを管理職がサポートする具体的な方法として、ジョン・ウィットモアがコーチングを提唱したのである。目標管理を成功させるためには、ドラッカー以降の理論と実践の展開を理解しなければならないのである。

<文献>
1)P.F. Drucker 1954.『現代の経営』ダイヤモンド社.
2)P.F. Drucker 1974
.『マネジメント 基本と原則』ダイヤモンド社.
3)諏訪茂樹 2012.「目標管理 ドラッカーの意図と限界」日本保健医療行動科学会年報 Vol.27,p253-257.
4)諏訪茂樹 2011.「ティーチングとコーチングで自立した看護師を育て、質の高い看護の実現へ」(インタビュー記事)医学界新聞 No.2921,p4-5.

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