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感情労働

1)感情労働とは

Heart2_2 20世紀までの長い間、労働は肉体労働と頭脳労働の二つに分けて説明されてきました。ところが、先進国では製造業中心からサービス業中心へと産業構造が変化するにつれて、肉体労働と頭脳労働だけでは充分に説明できない労働が増えることとなり、そこで感情労働(Emotional Labor)という新たな言葉が、20世紀の終わりごろから使われるようになりました。
 例えばカウンセラーは、たとえ身内に不幸があったとしても、自分の個人的な悲しみは脇に置いて、クライエントの気持ちを癒さなければなりません。また、例えばクレーム対応係は、たとえ理不尽な要求を突きつけられたとしても、自分の不快感は脇に置いて冷静に振舞い、顧客に納得してもらわなければならないのです。これらは肉体労働でもなければ頭脳労働でもなく、感情労働です。同様に、教育や医療や福祉など、対人サービスに携わる専門家はすべて、感情労働としてサービス利用者と接することになります。また、先輩と後輩との関係も、管理職とスタッフとの関係も、決してプライベートな関係ではなく、仕事上の公的な関係です。仕事として関わるのですから、個人的な感情で接しても上手く行かず、感情労働を行うことが必要となるのです。
 感情労働とは、自分の感情をむき出しにして、非理性的には働くことではありません。それとは逆で、自分の感情を理性で上手くコントロールしながら、のぞましい方法で相手に接することにより、やる気を引き出したり、気持ちを癒したり、満足感を与えたりすることです。

2)感情労働は疲れる?

 感情労働では、もしも自分の気持ちが職業上求められるものと異なる場合には、自分の気持ちをコントロールしたり、脇に置いたりしなければなりません。そのために、感情労働に従事する者は自分らしさを失い、精神的に疲弊するという主張もありますが、それは余りにも飛躍した極端な議論だと言わざるを得ません。
 肉体労働にしても、頭脳労働にしても、働く以上は多かれ少なかれ、疲れを伴います。ただし、それが心地よい疲れなのか否かは、本人の適正もさることながら、労働の意義や価値を理解したうえで、自分の意思に基づいて働いているか否かに、大きく左右されるのです。仕事の意義や価値も理解できず、ただ生活のために仕方がなく働いていたり、自分の意思に反して強制労働に携わっていたりすれば、自分を磨り減らして疲弊するのは当たり前です。
 契約の範囲を超えた理不尽な要求をするモンスター利用者には、毅然と対応しなければなりません。しかし、困っている人やゴールを目指す人にサービスを提供して喜んでもらうのは、本来、やりがいのある素晴らしい仕事であり、ものづくりや企画・開発・管理などと同様に、なくてはならない社会的価値のある仕事です。このような対人サービスの意義や価値を充分に理解した上で、自らの意思で主体的に働き、目的を持って意図的に利用者とかかわるならば、感情労働は自分らしさを失う疎外された労働ではなく、逆に自己実現につながる楽しい労働になるはずです。

3)うまく感情労働するために

 感情労働の主要な手段はコミュニケーションです。そうすると、必要なコミュニケーション能力を身につけていなければ、感情労働も難しくなります。
 コミュニケーションとはメッセージをやり取りして共有することであり、そうすると感情労働ではメッセージを正確に共有する能力が、先ずは求められることになります。ただし、コミュニケーションはメッセージを共有するだけで、終わるわけではありません。共有されたメッセージは、その送り手や受け手の認知、感情、思考、行動などに、様々な影響を及ぼします(コミュニケーション効果)。感情労働に携わる者にとっては、このメッセージの影響を充分に理解して、必要に応じてメッセージを上手く使い分ける能力(スキル、技能)が何よりも重要なのです。
 また、必要に応じてメッセージを使い分けるには、理性的能力が欠かせません。もしも理性的なコントロールが効かず、自分の感情に振り回されている状態ならば、感情労働はできないのです。そうすると、いまの自分が抱えている感情や、ひごろの自分の感情傾向について、充分に自覚(セルフアウェアネス、自己覚知、自己理解)している必要があります。そのためには、自分のことを対象化して自分で見詰めたり、あるいは自分のことを周りの人から教えてもらったりしなければならないのです。
 今後、このブログでは、メッセージが人に及ぼす様々な影響について、言語、準言語、非言語の各チャネルにわたって、少しずつ取り上げていこうと思います。

文献:
1)Hochschild, Arlie Russell 1983:The Managed Heart: Commercialization of Human Feeling, University of California Press.石川准・室伏亜希訳 2000:管理される心―感情が商品になるとき、世界思想社.
2)Pam Smith 1992:The Emotional Labor of Nursing,Palgrave Macmillan.武井麻子・前田泰樹訳 2000:感情労働としての看護、ゆみる出版.

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