« コミュニケーション能力を改善・向上する教育 | トップページ | 新年のご挨拶 2009 »

演習による体験学習

1.講義や講演では教育効果なし

Blindwork20081106120 教育方法は多様であり、大きく分けても講義(もしくは講演)、演習、実習の三つがある。講義は体系的な知識を講師が一方的に話すことを基本とし、双方向といってもせいぜい質疑応答を交える程度である。演習は本番さながらの練習であるが、本番ではないので失敗も許されることになり、失敗から多くを学ぶことができる。実習は本番そのものであり、現場での実践を繰り返すことから、「習うより慣れろ」という教育も可能となる。

 教育というと、一方通行の講義しか思い浮かばない人がいる。もちろん、法律や制度上のことなど、講義で知識教育するのが現実的な学習項目もある。しかし、コミュニケーション、リーダーシップ、ティーチング、コーチング、カウンセリングなど、「わかる」だけではだめで、「できる」ことが大切な学習項目を教えようとしたり、生活習慣を改善してもらおうとしたりするならば、講義に高い学習効果を期待することはできない。

 アメリカの心理学者であるレビンによると、「食習慣を変えましょう」という講演会を実施したところ、実際に変ったのは参加者のたった3%であった。それに対して、参加者を小グループに分けて賛否について集団討議をしてもらい、その後に自己決定してもらったところ、参加者の32%に変化が見られたという(Lewin,K.1943)。また、コーチングを今あるような形にまとめて広めたウィットモアによると、簡単な作業手順について説明を受けただけの人で、3ヵ月後にできたのはたったの10%であった。それに対して、説明を受けた後に見せてもらった人では32%、見せられた後に予行演習を行った人では65%ができたという(John Whitmore 1993)。いずれにしても、受身の講義では時間とお金の無駄遣いであり、演習などの体験学習を通して自己決定しながら主体的・能動的に学ばなければ、「できる」には至らないことを示している。

2.「できる」を目指す体験学習

 「できる」ことを目指して、演習による体験学習を行う際には、まずは「どのようにやるのか」を説明をした後に、可能であればデモンストレーションするとよい。そして、とりあえずは参加者にやってもらい、そのうえで「もっと上手くやるにはどうすればよいのか」を振り返ってもらうのである(振り返りのための「気づきノート」はこちら)。個人の力には限界がある。そこで、3分間ほど個人で振り返った後、3~4名一組のグループで5分間ほど振り返ってもらう。参加者が多くて複数のグループができた場合には、さらに各グループの代表者が発表することにより、全体で振り返ることにする。このように、個人、グループ、全体という3ステップで振り返ると、沢山の気づきを得ることができる。沢山の気づきが得られたならば、それらの中から取捨選択してもらい、それぞれに「今度はこれでやろう」と自己決定してもらう。そして、もう一度やってもらうと、1回目よりも2回目の方が上手くできるようになる。

Workshop

 講義で知識教育を行うのであれば、講師と参加者が向かい合うだけの階段教室でも可能であり、手狭な鮨詰めの会場でも構わない。また、通信技術が発達した今日では、わざわざ講義のために、一箇所に集まってもらう必要もなくなっている。ところが、「できる」ことを目指して、演習による体験学習を行おうとすれば、やはり講師と参加者や参加者同士で、同じ場所を共有していることが望ましい。さらに、身動きのとれないような鮨詰めの階段教室ではダメで、机と椅子が自由に動かせる広めの会場も必要となる。

 会場だけではなく、時間にも余裕が必要となる。「~ですよ」と知識を一方的に教えるだけなら短時間で済むが、人から教えてもらったことは身にならない。それに対して、自ら考えて気づいたことは、次の行動に活かされやすい。体験を通して「~なんだ」と本人が気づき、しかも実際にできるようになるためには、相当の時間が必要となる。しかし、時間を費やした分だけ、学習効果も高いのである。

 演習による体験学習を指導できる教育者は、大学では未だ充分に育っていない。なぜならば、文部科学省による大学改革にもかかわらず、相変わらず教育能力よりも研究能力(というよりは研究成果の数)を教員に求める大学がめずらしくないからである。「研究能力が高い者ほど教育能力も高い」と考えるのは、教育方法として一方通行の講義しか考えていないからである。ところが、研究論文を書くように、マイクを握って答えを一方的に話してしまえば、学生の主体的な体験学習にはならない。学生に体験させて、そのうえで答えを考えさせるためには、教育能力そのものが必要なのである。

※ 振り返りの際に記入する「気づきノート」はこちら
「分かる」と「できる」コミュニケーション能力を改善・向上する教育などもご参照下さい。

文献:諏訪茂樹「人と組織を育てるコミュニケーション・トレーニング」日本経団連諏訪茂樹「対人援助とコミュニケーション -主体的に学び、感性を磨く-」中央法規出版

|

« コミュニケーション能力を改善・向上する教育 | トップページ | 新年のご挨拶 2009 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




« コミュニケーション能力を改善・向上する教育 | トップページ | 新年のご挨拶 2009 »