行動変容ステージと支援方法
行動変容の過程には、特徴のある幾つかのステージ(時期)がみられる。行動変容のステージについて、特定保健指導に関する講演会で質問をいただいたので、ここで問題を整理してみたい。
厚生労働省が平成19年4月に発表した「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」では、「行動変容ステージとは、行動変容に対する準備段階のことで、次の5つのステージに分けられる」とある。
無関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がない時期
関心期:6ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
準備期:1ヶ月以内に行動変容に向けた行動を起こす意思がある時期
実行期:明確な行動変容が観察されるが、その持続がまだ6ヶ月未満である時期
維持期:明確な行動変容が観察され、その期間が6ヶ月以上続いている時期
これらのステージにはそれぞれに相応しい支援方法があり、「ステージごとに支援方法を変え(ながら)、ステージが改善していけるように支援する」とのことである(確定版 p86)。
それでは、各ステージに相応しい支援方法とは、いったい何なのか?私が質問されたのは、まさにこの点である。6ヵ月後に行動変容に向けた行動を起こす意思がある人と、7ヵ月後に行動変容に向けた行動を起こす意思がある人とで、どのように支援方法を変えればよいのか、正直にいって私にも分からない。また、関心はあるが6ヶ月以内に行動を起こす意思のない人も、実際にはいるのである。
何ヶ月以内に行動を起こす意思があるかでステージを分けるのには、やはり無理があるように思える。各ステージの名称をいかして次のようにステージ分けする方が、体験者の心の状態にも対応しており、妥当性が高まるであろう。また、心の状態によってステージ分けする方が、必要な支援方法を考えやすくなり、有用性も高まるであろう(図および表を参照)。
無関心期:行動変容についての関心が「全くない」もしくは「あまりない」時期。この時期の人にはコーチングも、指示や助言によるティーチングも、空振りに終わるであろう。行動変容の必要性を正しく理解してもらう必要があり、そのためには煩がられても、情報提供としてのティーチングを根気強く繰り返すしかない。ただし、脳梗塞、心疾患、癌などになる確率を伝えて脅すだけでは、防衛的態度や反感を強める結果になりかねない。生活習慣を変えることができ、健やかな生活を実現している人の成功例も、同時に伝えて行きたい。
関心期:行動変容についての関心が「そこそこある」もしくは「とてもある」時期。ようやく、面接などによる直接的な働きかけに、効果が期待できる時期となる。この時期からは、傾聴しながら受容的・共感的に接して、信頼関係を築いていくことが特に大切となり、そのためにカウンセリングの技術が必要となる。関心はあるが行動を起こす意思のない段階であり、その背景には行動変容そのものや、それに伴う負担への不安も少なくない。したがって、行動変容の具体的な方法や過程についても正しく理解してもらい、「それなら私にもできる」という自己効力感を高めてもらうことが大切であり、そのために情報提供としてのティーチングを行う。また、時間に余裕がある人で、しかも誰かと一緒だとやる気の出る人には、皆で支えあいながらゴールを目指すグループワークに誘い、見学してもらったり参加してもらったりするのも効果的。
準備期:行動変容についての関心があるだけではなく、さらに行動変容のための行動を「ちかぢか実行したい」もしくは「直ぐに実行したい」と思っている時期。適切な目標を設定してもらい、行動計画を立ててもらうことで、自己効力感を高めてもらうことが大切。そのためにコーチングを行うことになるが、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用するとよい。
実行期:明確な行動変容が観察されるが、今後の持続についての不安が「とてもある」もしくは「そこそこある」時期。自己効力感を高めて持続してもらうために、継続してコーチングを行うことになる。ただし、基礎知識のない初心者で、本人が必要とする場合には、指示や助言によるティーチングも行う。もちろん、情報提供としてのティーチングやグループワークなど、他の技術も適宜、併用するとよい。
維持期:明確な行動変容が観察され、今後の持続についても不安が「あまりない」もしくは「まったくない」時期。これまでの努力を賞賛するとともに今後の持続を奨励するだけでよく、それ以上に継続的なかかわりを特に必要としない。
表 行動変容のステージを評価するための質問
Q1 生活習慣を変えるための行動を Q2 行動を実行していない人にお尋ねします。生活習慣を変えることに Q3 関心がある人にお尋ねします。生活習慣を変えるための行動を Q4 行動を実行している人にお尋ねします。その行動を継続するうえで |
※「・・・ですよ」と教えるのが、情報提供としてのティーチングです。それとは別に、「・・・しましょう」という指示や「・・・したらいかがですか」という助言で答えを与えるティーチングもあります。準備期や実行期であっても、コーチングでは上手く行かない相手(初心者など)には、指示や助言によるティーチングも必要であるというのが、筆者の考えです。
行動変容のための保健指導技術(援助技術)、特定保健指導でのコーチング、情報提供としてのティーチング、指示による積極的ティーチング、助言による消極的ティーチング、ティーチングとコーチングの使い分け、セルフコーチングでダイエット、COMMUNICARE blog:コーチングなども、ご参照下さい。
文献:諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング -利用者の自己決定とやる気をサポート-』中央法規出版
2007年10月13日投稿
2009年5月19日改定
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