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行動変容のための保健指導技術(援助技術)

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 いまでも「指導」という言葉は使われていますが、上から下への一方的な「指導」ではなく、対等で双方向の「援助」や「支援」が求められていると考えて、私は「援助」や「支援」という言葉をできるだけ使うようにしています。
 また、人々は行動変容や健康づくりの対象(object)ではなく、主体(subject)であるという考えから、保健・医療・福祉サービスの「利用者」(client)という表現を、私はできるだけ使うようにしています(この点については、故 中川米造先生が凄くこだわっていたことを、思い出す)。
 ナラティヴ(ナラティブ)の理論を持ち出すまでもなく、言葉が現実を創り出すのであり、表現はとても大切だと、日頃から思っています。

 さて、本題に入りますが、生活習慣病対策を主眼にしてまとめられた「標準的な健診・保健指導プログラム(確定版)」を今年4月に厚生労働省が発表して以来、保健指導技術(援助技術)に関する問い合わせを何件かいただきました。厚労省に問い合わせてもらうのが一番間違いないと思うのですが、私の関心領域でもありますので、対象者(利用者)とのコミュニケーションという視点から、あくまでも私見として解説を試みたいと思います。

 問い合わせをいただくようになったのは、発表された「プログラム」の第3編「保健指導」、第1章「保健指導の基本的な考え方」、第4節「必要とされる保健指導技術」に、次のような記述があるからです。
 「保健指導を行うための技術には、必要な情報(健診結果、ライフスタイル、価値観、行動変容のステージ(準備状態)等)を収集するためのコミュニケーション技術、それに基づき支援方策を判断する技術、そして対象者が自らの生活行動の課題に気づき自らの行動目標を決定することを支援する技術等があり、具体的には、カウンセリング技術、アセスメント技術、
コーチング技術ティーチング技術自己効力感を高める技術、グループワークを支援する技術などがある。」(プログラム 70頁)

 つまり、まずは健診の結果から文書等による一方的な情報提供のみにするのか、1回だけの動機づけ支援にするのか、3~6ヶ月の継続的な支援(積極的支援)にするのかを判断します。そのうえで、動機づけ支援や継続支援の利用者には、挨拶と自己紹介をして、話しやすい雰囲気を作りながら、「健診の結果はいかがでしたか?」「背景は何だと思われますか?」「結果をどのようにお考えですか?」「これまで健康のために、何か努力されてきましたか?」などと、様々な質問を巧みに使い分けることで、必要な情報を上手く収集します。そして、利用者自身で問題に気づき、目標や方法を自己決定して、その問題を自己解決して行けるように、利用者の特性や取り巻く環境に応じて様々なコミュニケーション技術を駆使しながら働きかけることになるのです。
 つぎに、言葉を一つずつ、解説します。

 1.カウンセリング技術
 「プログラム」では励まし(「がんばって下さいね」と伝えるのがその典型でしょう)も、必要な支援として挙げられています。そうすると、カウンセリングといっても、心の癒しを目指す心理カウンセリングでないことは明らかです。進路カウンセリングや結婚カウンセリングなどと同様に、ここでは利用者の相談に専門家が応じるコンサルテーションと同じ意味で、カウンセリングという言葉が使われていると言えます。しかし、もちろん、「それはご苦労されましたね」とか「それはよかったですね」と伝えて共感し、利用者の気持ちに付き添う技術は、コンサルテーションにおいても大切であり、信頼関係を築くうえでも効果的です。

 2.アセスメント技術
 アセスメントとは、かかわり方を決めるために、利用者が抱える問題とその背景を理解(事前評価)することでしょう。特定保健指導では内臓肥満症候群か否か、また、その背景は何か、さらに行動変容ステージはどの段階かなどをアセスメントすることになります。
適切にアセスメントするためには、収集しようとする情報に応じて、「はい」とか「いいえ」などと応え方が決まっている閉ざされた質問と、考えながら自由に応えられる開かれた質問を、うまく使い分けることが大切です。「夕食は何時ごろに食べていますか」とか「喫煙していますか」などは閉ざされた質問の具体例であり、「この結果をどう思われますか」とか「どうしてそうなったと思われますか」などは開かれた質問の具体例です。

 3.コーチング技術
 誰かから指示された行動に、責任を感じる人は少ないでしょう。それに比べて、自己決定した行為には、やりがいと責任を伴い、やる気が高まることから、より確かな結果が期待されるのです。コンプライアンス論に基づいて一方的に指示をするのではなく、開かれた質問を駆使する
コーチングによって、「6ヵ月後にどれぐらいになれば良いと思いますか」とか「どうしたら可能だと思いますか」などと尋ねて、目標や達成方法を利用者本人に考えてもらい、自己決定してもらいます。

 4.ティーチング技術
 コーチングの理論では、
指示助言をして答えを与えることを、ティーチングといいます。しかし、ここでは情報提供という意味でも、ティーチングという言葉が使われているように思えます。つまり、「1kg減らすのに約7000kcalの消費か制限が必要ですよ」とか「食事制限だけではリバウンドしやすいですよ」などと、必要に応じて専門的な情報を分かりやすく提供する技術です。専門的な情報を提供したうえでのコーチングを、私は「インフォームドコーチング」と呼んでいます。

 5.自己効力感を高める技術
 「それなら私にもできる」とか「私も捨てたものではない」というように、自分への自信や信頼感のようなものを、自己効力感といいます。利用者の自己効力感を高めるためには、難しすぎもせず、易しすぎもしない目標設定が大切です。また、本人に合った確実に実行できる方法を、選ばなければなりません。さらに、ちょっとした変化も見逃さず、「よく頑張りましたね」と褒めること(賞賛)も効果的です。

 6.グループワークを支援する技術
 1人の力には限界があります。グループワークの力を借りることで、1人では困難な問題も解決しやすくなるのです。よきライバルを作って、競争するのもよいでしょう。役割分担をして、皆でゴールを目指すのもよいでしょう。そうすることで、Aさんの努力がBさんの努力を呼び、Bさんの努力がCさんの努力を呼び、Cさんの努力がAさんの更なる努力を呼ぶというように、努力の相互促進が生まれるのです。メーリングリストや電子掲示板を作成したり、定期的にミーティングを開催したりして、メンバー同士で情報交換や励まし・共感ができるように、支援します。

 カウンセリングやナラティブやコーチングなど、しばしば特定のコミュニケーションアプローチがブームとなり、まるで洗脳されたように熱きょうする人達もいます。しかし、当然のこととして、どのアプローチにも可能性と限界があり、そのために各種アプローチをスキルとして冷静に使い分けなければ、利用者の利益を実現することはできないという、日頃の私の主張と同じ考えに基づいていると思いました。

 ※行動変容ステージと支援方法行動変容ステージと支援方法(その2)特定保健指導でのコーチング情報提供としてのティーチンググループワークによる問題解決セルフコーチングでダイエットCOMMUNICARE blog:コーチングなども、ご参照下さい。

文献:
諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング -利用者の自己決定とやる気をサポート-』中央法規出版
諏訪茂樹「ティーチングとコーチングの使い分けによる健康支援」日本保健医療行動科学会年報 vol.26,p86-88

2007年5月10日 投稿
2009年8月13日 改定

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