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非指示的にではなく、うまく指示すること

 私が運営しているサイトの掲示板(ひとりごと)に、どこかの看護学生からの書き込みがありました。なんでも、その学生が看護実習の手順書に、患者への声かけとして「~しませんか?」と記入したところ、看護教員から「これは指示している!」との厳しい指導が入ったとのことで、その学生はとても困惑してしまったという内容です。

 「~しませんか?」というのは誘いの言葉であり、「~しましょう」とか「~して下さい」という指示と異なります。書き込みを読んで私が気になったのは、このような当たり前のことではありません。看護教員が「指示を出してはいけない」「非指示的にかかわらなくてはいけない」と思い込んでいることであり、しかも、そのような思い込みに基づき、看護学生を教育していることなのです。

 非指示的とは来談者中心カウンセリングにおいて、カウンセラーに求められる基本的な態度です。カウンセラーは指示を出さずに、クライエントの話しに耳を傾けることに専念しなければならず、そうすればクライエントに自ずと変化が表れるという考えです。指示を出してはいけないという看護教員は、おそらく、この来談者中心カウンセリングを学んだものと思われます。そして、この基本的な態度が、看護師にも必要だと考えたのでしょう。しかし、当たり前のことなのですが、看護はカウンセリングではなく、看護師はカウンセラーではありません。看護師が患者に一切の指示を出さずに接して、看護の仕事は成り立つのでしょうか。

 がんばるコーチングとがんばらないカウンセリングで既に書きましたが、医療や福祉の領域、それに教育の領域でも、これまでにコミュニケーションの方法を、おもにカウンセリングから学んできました。そのせいか、カウンセリングの様々な考えを鵜呑みにしてしまい、つねにカウンセラーのように接することが大切なんだと、思い込んでしまう人が結構います。確かに、指示を出さずに傾聴することが、必要となる場面もあるでしょう。しかし、つねに非指示的に接していては、医療も福祉も教育も成り立ちません。それどころか、医療職も福祉職も教育職も、ひごろの業務の中で実は頻繁に指示を出しているのであり、自らの職業アイデンティティを明確にして、うまく指示を出すことを学べば、業務が大きく改善されるのです。

 医療や福祉や教育など、様々な対人援助サービスの領域では、カウンセリング・ブームからコーチング・ブームへと移行しつつあるように思えます。ところが、ティーチングとコーチングの使い分けで既に書いたように、コーチング発祥の地であるスポーツ界では、やはりティーチングも必要だと言われるようになりました。特に右も左も分からない初心者には、基本的なことをしっかりと教えなければなりません。指示や助言によるティーチングは、対人援助職にとって基本的な接し方の一つであり、ティーチングの学習を疎かにするわけには行かないのです。

 実際に、適切なティーチングの方法を学んでみると、カウンセリングやコーチングと同様に、意外と奥が深いことに気づきます。そして、ティーチングの方法を改善すれば、それだけでも業務改善につながることを、実感できるようになります。これまでコーチングについて随分と書いてきましたので、そろそろティーチングについても書き溜めて行きたいと思います。

※ブームに惑わされて特定のアプローチに固執していては、利用者の利益を実現できません。医師が症状に応じて薬を処方するように、コーチング、ティーチング、カウンセリング、ナラティブアプローチ、回想法、バリデーション法など、様々なコミュニケーションアプローチを目的に応じて使い分けることが、何よりも大切なのです。

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