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ティーチングとコーチングの使い分け

suggestion ティーチングとは指示助言によって相手に答えを与えることであり、コーチングとは相手から答えを引き出し、自己決定や自己解決を支持することです。コーチングはティーチングを批判することによって、その有効性を説明するのが一般的です。「人から教えられたことは身にならない」、「指示・命令されたことに責任を感じる人はいない」、「自己決定した方がモティベーションが強く働く」などなど。

 いずれも、もっともではありますが、常にコーチングの方がティーチングよりも優れているかと言うと、必ずしもそうではないようです。コーチング発祥の地であるスポーツ界では、「はやりティーチングも必要だ」と言われるようになっているのです。特に右も左も分からない初心者に対しては、まずは基本的なことを教えなければなりません。また、危機に対処するときにも、「どうすればいいと思う?」などと、尋ねている場合ではありません。

 「これか、あれか」と二者択一式に考えるのが20世紀のパラダイム(考え方の基本的な枠組み)で、「これとあれの使い分け」を議論するのが21世紀のパラダイムだと言われています。「ティーチングかコーチングか」を議論するのではなく、「ティーチングとコーチングの使い分け」を議論する方が、実際に役立つでしょう。

 ①「やったことがない」「自信がない」「全く自己解決できない」「どうすればいいか教えて欲しい」という依存の相手には、「~しましょう」「~して下さい」という積極的なティーチング(指示)が、どうしても必要になります。

 ②「やったことはある」「でも、まだ自信がない」「少しは自己解決できる」「自分のやり方が適切か否か、アドバイスが欲しい」という半依存の相手には、もう少し本人の主体性を尊重して、「~してはどうですか?」「~という方法もありますよ」という消極的なティーチング(助言)が望ましいでしょう。

 ③「何度かやったことがある」「そこそこ自信がある」「おおよそ自己解決できる」「自分のやり方を認めて応援して欲しい」という半自立の相手には、さらに本人の主体性を尊重しつつ、「どうすればいいと思う?」「どうしたいの?」などと開かれた質問して答えを引き出し、「じゃあそうしましょう」といって支持するコーチングが効果的なのです。

 ④「いつもやっている」「自信がある」「完全に自己解決できる」「任せて欲しい」という自立した相手には、口出しせずに見守るだけでよいでしょう。

   本人に任せられない問題を放置してしまい、後で取り返しのつかない事態を招くことは、避けなければなりません。逆に、任せておけばよいことにまで口出ししてしまい、本人のやる気や主体性を潰してしまうことも避けるべきです。相手の自立度に応じてティーチング(指示や助言)とコーチング(自己決定と自己解決の支持)を上手く使い分けながら、徐々に任せてよい問題を増やしていくことで、自立支援が可能になるのです。

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※ なお、コーチングの理論での定義とは別に、情報提供を「ティーチング」と表現することもあります。専門的な情報を提供したうえで、自己決定や自己解決をサポートするコーチングを、私は「インフォームドコーチング」と呼んでいます。情報提供としてのティーチング指示による積極的ティーチング助言による消極的ティーチング行動変容ステージと支援方法COMMUNICARE blog:コーチングスタッフを育てるリーダーシップなども、ご参照下さい。

文献:諏訪茂樹『対人援助のためのコーチング -利用者の自己決定とやる気をサポート-』中央法規出版
資料:スタッフの満足度を知り、接し方を改善するためのワークシート(PDF)

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コメント

コーチングに関係している人の多くが、まるで洗脳されているかのようにコーチングを信じて疑わず、不自然に元気で明るいのが、以前から気になっていました。
冷静な態度でコーチングを取り扱っている人もいることを知り、少しは安心しました。

投稿: masa | 2008/04/10 19:51

masaさん、こんにちは。
私は曲がりなりにも社会科学者であり、コミュニケーション、人間関係、集団・組織に関する教育・研究職です。したがって、特定のアプローチにだけ熱い思いを寄せるわけにもいかず、各アプローチの可能性と限界を冷静に見極めて紹介していくのが私の役割なのです。
ご理解いただき、ありがとうございます。

投稿: 諏訪茂樹 | 2008/04/11 20:38

現在、ティーチングとコーチングの効果について教育に活用できないかと考えています。今回の内容に非常に感銘を受けました。今後とも読ませていただきたいです。

投稿: ZERO | 2008/08/12 19:36

先日、小・中・高校に勤務する養護の先生を対象にした研修(免許更新予備講習)で、健康教育の方法として紹介しました。お盆休み明けにはOT・PT(リハビリの専門家)養成校の教員を対象に教育方法として紹介し、演習も交えて身につけてもらう予定です。家庭教育でも学校教育でもスタッフ教育でも、使えるモデルだと思います。

投稿: 諏訪茂樹 | 2008/08/13 08:50

大変役に立ちました。参考になる本までのってあってありがとうございました。

投稿: カイトポチ | 2009/08/27 17:22

ビジネス界でもようやく、コーチングブームが落ち着いてきたようで、ティーチングとの使い分けが議論されるようになって来ました。
(日経ビジネスAssocie Online http://www.nikkeibp.co.jp/article/nba/20081017/174287/)
「褒めなければいけない」「頑張ってはいけない」「指示はいけない」などと、極端な言説がブームとなりますが、ブームに振り回されないことが大切だと思うのです。

投稿: 諏訪茂樹 | 2009/08/28 08:10

スイミングクラブでコーチを長年勤めています。自分が行っているのは「コーチャー」か「ティーチャー」か?
今回の記事を見て、コーチャーでもありティーチャーであると確信が持てました。

投稿: SWIMさん | 2009/11/14 13:22

SWMさん、こんにちは。20世紀は「これかあれか」と二者択一式に考えて、一貫性がないと「矛盾している」と非難されました。それに対して21世紀は、「これとあれの使い分け」を柔軟に考える「しなやか」なパラダイム(物事の基本的な考え方)の時代だそうです。私たちの思考には未だに20世紀の影響が根強く残っておりますが、21世紀型のパラダイムで考えた方が、確かに上手く説明ができて、納得できることが多いと思います。

投稿: 管理人 | 2009/11/15 07:25

初めまして。こんにちは。
突然ですが、先生は「モミュニケーションツールとしてのマスメディアの役割」をどのようにお考えでしょうか。このように申しますのは、昨今のメディアの報道は単に、大衆うけするだけの空虚なものになっていると感じているからです。
よく言えば、わかりやすい、でも実際には人々は何を受け入れるのでしょうか。
とりわけ、政治に関するニュースのときに感じるのですが、あのような報道のさまで大衆は(自分なりに)正しく判断できるのか疑問です。
民主政治をよく大衆のもとに制御するには、大衆自身が「よく考える」ようにならなければならないですが、今の報道は「右か左か」と言う大衆に判断を留保したものではありません。
メディアは再度そういった社会的責任があると自覚し、本来の大衆と国家を結ぶコミュニケーションツールにたちかえるべきではないでしょうか。

投稿: 佐藤 祥崇 | 2011/06/28 15:23

佐藤様、コメントありがとうございます。マスメディアやマスコミュニケーションについては勉強不足ですが、私の素人的な印象としては、ジャーナリズムと言うよりも売り上げなどの数字が先行していると感じることが度々です。出版社も同様であり、たいして役に立たないものを業者と組んで売り込み、繰り返し宣伝してブームをしかけ、自信のない人ほどブームに巻き込まれます。まるで八百長が当たり前のプロレス・ショーの様に、マスコミの一部報道などを私は見ています。

投稿: 管理人 | 2011/06/29 06:35

2011年以来お久しぶりでございます。
私のような素人の発言に親身にご返答いただき感謝いたしております。
私ごとですが、30歳にして再度大学に進学することがようやく決心がつきました。
首都大の社会人枠で社会学に応募しようとしております。
先日応募要件のTOEFLを受験(スコア35)、結果に落胆しております。それと申しますのも、英検2級(英検自体初受験でした)には今年7月に合格し、10月には準一級の受験を予定しておりまして、英語にある程度自信があったからです。
あまりの結果に、首都大合格へ向けての予定が狂ったようで、まだ立ち直れておりません。

社会学を学びたいと考えましたのは、自分が人間社会に所属するが故の様々な葛藤を経験したからであります。
私は現在父とともにコンビニを経営しておりまして、その過程でいくつかの問題に直面しております。
一つは利益(純利益ベースです)の問題、一つは人材の問題であります。
人材の問題に限定してお話致しますと、働き手の不足を補うため、多くの外国人労働者を雇用(店舗人員の80%)しておる現実であります。
言語の問題、文化の問題、習慣の問題等あり、一般的な日本人の教育に比べ、実感として約5倍の労力が必要となっております。
正に先生の専門でいらっしゃる、指導及びコミュニケーションの壁に日々取り組んででおります。

現実問題としてこういった問題はサービス(コンビニ、介護等)業全体に存在しております。
原因はいくつか挙げられますが、実感としては3K業種としての認識と、労働人口に占める若年層の急速な減少であると感じております。
ご存じのことかと思いますが、10年前と比べて団塊の世代の大量退職を経て、65歳以上の人口は全人口の25%に近い値となっております。
出生率は1.34程、私が高校を卒業したときより18歳から25歳の人口はかなり少ないと思われます(コンビニ等、小売店舗で必要な主な年齢層です)。

社会学的に考察いたしまして、現在の国家政体や産業資本主義を維持するには、多様な産業構造の維持が必要と認識しております。
また世界に国家が必要な真理も考察いたしますと、理想といたしましては一国でおおよその経済活動が循環するのがベストであると認識しております。
しかし、世界が比喩的に縮小するなかで、日本国内の製造拠点、近年は開発拠点の海外への遷移、代替産業の未成熟により前述の理想は困難でありましょう。

こういった状況の中で、よりよい解決方法を考察研究したいと強く感じております。願わくばより良い考察をより多くの方々と共有して参りたいとかんがえ、大学での基礎学問の習得を決心致しました。
将来的には社会学者を名乗れたら(「職業としての学問」ができるほど甘くは考えておりません)
、幸せであろうと愚考しております。

もし機会があり許されるのでありましたら、いつか先生の講義を拝聴させて頂きたいと考えております。

末筆ながら、まとまりのない文章をお読みいただきありがとうございます。

投稿: 佐藤祥崇 | 2013/09/26 11:12

佐藤さん、ありがとうございました。
なるほど、今とこれからの日本社会の問題を考えるには、やはり社会学かもしれませんね。
だいたいの大よそですが、時間当たりの最低賃金は東京¥850、ソウル¥300、深浅¥100、ハノイ¥70です。
問題を解決するヒントがあると思います。
ご活躍を楽しみにしております。

投稿: 諏訪茂樹 | 2013/09/27 07:36

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