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がんばるコーチングとがんばらないカウンセリング

 「励ましはよくない」という言葉を、たびたび耳にします。また、「がんばらない...」というタイトルの本も、たくさん出版されています。まるで「がんばらないブーム」のようですが、本当に、がんばらなくてもよいのでしょうか?本当に、励ましはよくないのでしょうか?

 まず、客観的なデータから紹介しましょう。特別養護老人ホームで暮らす高齢者を対象にして、平成2年に学生と私が一緒に行った面接調査の結果です(88名が回答)。「職員から’がんばってくださいね’と声をかけられると嬉しいですか?」と尋ねたところ、「嬉しい」が87.7%、「どちらかというと嬉しい」が10.0%、「どちらかというと嬉しくない」が0.0%、「嬉しくない」が1.1%でした。つまり、実に97.7%の高齢者が、励まされると嬉しいと応えているのです(諏訪茂樹「介護専門職のための声かけ・応答ハンドブック」中央法規出版、1992)。

 また、病院の入院患者を対象にして、平成13年に私のゼミの学生が実施した無記名のアンケート調査でも、同様の結果が出ています(99名が回答)。’がんばってください’という言葉を入院中に看護師から「よくかけられる」(31%)人や「時々かけられる」(44%)人は多く、これらの人の全員が「とてもプラスになった」(49%)もしくは「どちらかというとプラスになった」(51%)と応えているのです(Mさんの卒業論文「看護師の励ましの言葉かけが患者の闘病意欲に及ぼす影響」非公開、2001)。

 もちろん、多数決の原理で決めるつもりはありません。しかし、これらのデータを知っている私は、「励ましはよくない」という通説に納得することができず、「がんばらない」という言葉の氾濫を素直に受け止めることができないのです。いったい、何を根拠にして、「励ましてはいけない」と言っているのでしょうか?どのような根拠で、「がんばらない」ことを正当化しているのでしょうか?

 答えは簡単です。医療や福祉をはじめとする対人関連領域の全般に言えることですが、これまではコミュニケーションの方法を、おもに心理カウンセリングから学んできました。そして、心理カウンセリングの対象になる人は、その多くが励ましてはいけない人たちなのです。特に、ひどく塞ぎ込んでいる人や鬱病の人にとって、励ましの言葉が逆効果になることは、よく知られています。

 それでは、医療や福祉のサービスを利用している人のすべてが、塞ぎ込んでいたり鬱病だったりするのかというと、そんなはずはありません。やる気を出して「がんばろう」としている人に「がんばらなくてもいいですよ」と言う人はいないでしょうし、「あなたには心の癒しが必要です」と言ってしまえば、まったくの押し付けになります。

 「がんばらない」とか「励ましてはいけない」という言葉は、心の癒しブームやカウンセリング・ブームを背景として、過剰に広がったように思います。そして、これらのブームの反動として、今日のコーチング・ブームを位置づけることができます。「がんばるコーチング」と「がんばらないカウンセリング」。どちらか一方だけがすべてを覆い尽くすのではなく、両者が並存することが大切でしょう。そして、必要に応じて選択し、うまく使い分けられるのが、一番よいのだと思うのです。

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